Shellac Japan Tour 2015
今更ながら11月末にShellacの来日を観に馳せ参じたことを書き記すなど。既に日付を越えて今は12月31日。もうひと月経ったのか…今でも鮮明にあの空気と風景が脳裏に焼き付いている。
説明不要のUSインディー界の裏ボス、スティーブ・アルビニ先生率いるバンドといえど平日のギグだったのでどんな感じの入りだろうと思いきや、まさかのソールドアウトで箱は満杯。現場においてはプレイ云々というよりもむしろバンドのアティテュードに感銘を受けた夜であり、ちょうどその時に『赤めだか』を読んでいたのでスティーブ・アルビニが立川談志とダブって見えた。両者は人種もジャンルも違えどDIY精神の権化であり、パブリックイメージとしては気難しくてとっつきにくい印象があるけれど、物事をちゃんと論理立てて思考するし、後続の人間にもその基準をちゃんと示す(そのクオリティの基準はとてつもなく厳格ではあるが)。そういうところでもこの両者は似通っていると思う。
特にこういったポストロックはアブストラクトな印象が強いけれども彼らは決して感覚的に演っているわけではないし、無責任に「ロックは感じるものだ」とか言い訳したりもしない。綿密に計算し尽くされたロジックという基盤があってこその内容だし、そしてなによりもギグがとても楽しい。魅せ方を凄くわかってるというか、エンタメとしてのクオリティも高い。
一番驚いたのがこちらからの質疑にも丁寧に応答してくれたこと。一端の音楽好きなので今までも色々なライブを見てきたけど、「それじゃあなんか質問ある人!」とかライブ中に言い出すバンドは初めてで、どちらかと言えばワークショップのようだった。終盤には「最後に2曲やって終わる。このあとステージ前でTシャツを手売りするよ。なにか質問があったらそのときに聞いてくれてもいいし、サインや写真が欲しかったら言ってくれ。別に何も買わなくてもいいからさ」と遠慮がちな日本人を気遣ってかわざわざ先立って言ってくれるあたり、仮初めではない本物のOMOTENASHI精神の持ち主だった。そして本当にアルビニ先生自らシャツを手売りするのであった。
プロデューサーとして八面六臂の活躍をするアルビニ先生ではあるけれど、裏方としてのゴトシだけではなくあくまでも現場主義を貫く一介の音楽家としての姿勢というか、覚悟みたいなものを見せつけられた夜だった。
airbnbを使ってみた
7月に香港に行った際、今ちょっと話題になっているairbnbを利用して宿を取ってみた。着の身着のまま、現地についてから安宿探し…がいつもの旅のスタイルではあるけれど、限られた短い日程で都市部のみに滞在するときはちゃんと渡航前に予約することが常となっている。今回は重慶大厦にでも泊まるかな~と考えていたところ、よく見ている旅系サイトの管理人さんがairbnbの紹介クーポンをバラまいていたので白羽の矢が立ったというわけです。
宿を選ぶ上で一にも二にも先立つのが値段。普通の香港人にとって「家を買う」というのは夢のまた夢…というぐらいの地価のバカ高さで有名な土地なので宿代もネックになりそうだなあと考え倦ねていたけれど、前記したairbnbのクーポンが約14,000円引きという小学生が適当に決めたような割引額のおかげでかなり安く泊まれた。
そしてairbnbが普通のゲストハウスやホテルの予約と違う一番大きな点が、人様の所有している物件を間借りできるということ。物件を所有していてそれを転貸したいホストと、現地人が普段暮らしているような部屋を宿泊施設として利用したいゲストの思惑が見事に合致した結果といえる。airbnbはあくまでも斡旋・仲介を行っているだけなので実態は個人間の取引になる。部屋を借りる場合はひと通りの個人情報、SNSのアカウント、そしてパスポートも登録しなければならない。パスポートに関してはウェブカメラで撮って送信するというスタイル。料金はクレカやPayPalで決済。実に簡単だった。
設備・ハウスルール等が物件によって様々なのは一般的な宿泊施設と変わらないが、airbnbの物件では最初にホストと待ち合わせをして鍵をもらったり、逆に滞在中一度も会わないままだったりもする。俺が泊まった部屋はパスコードロックのある部屋で、部屋の中に入るとカードキーがあり宿泊中はそれが利用できた。雑居ビルの一室だったので当然レセプションなどはない。しかしairbnbのメッセンジャー的な機能でホストと連絡は可能で、滞在中に「近くにランドリーはあるか?」という質問をしたらすぐにホストから返信が来た。長期滞在の場合は言えば掃除もしてくれたようだ。
余談ながら宿の検索時に大学構内にあるデモ隊のテントまで登録されていて笑った。数日後見てみたら既に消されていたのでジョークだったのかどうかは分からないが、こういう普通なら絶対に宿泊先として挙がらないであろうものですら選択肢として立ち上がってくるのが非常に面白い。個人間の取引なので自由度が高く、ホテル、ゲストハウス、ホステル、カウチサーフィンくらいしかなかった旅の宿泊スタイルに風穴を開けた感じだ。これといって定宿のない場所や、土地勘のない旅先でまた利用してみようと思う。
Hong Kong Express
遂に憧れの地、香港へ行ってきた。
滞在三日目、中心街の喧騒を離れて獅子山の頂から都市部の街並みを眺めつつ、なんとなくThe Jamの"In The City"という曲を思い出していた。Umbrella Movementという学生を中心としたデモがこの地で起こったのは記憶に新しく、ここ獅子山の岩壁にも「我要真普選=真っ当な普通選挙を希望する」のスローガンが掲げられていた。
1970年代、かつての宗主国であったイギリスでマグマの如く吹き出した若者の憤怒や焦燥がパンクロックという表現技法を用いて掻き鳴らされ、そこで歌われていたことがそのまま数十年後の香港の状況と合致してしまったというのは、歴史は繰り返されるというべきか、停滞する人治とそれに抗う若者のエネルギーはどの時代でも普遍というべきか、運命的とまではいかないにしても色々と考えてしまう。
香港を中心として、マカオ、そして深センという事実上3カ国を跨いだこの旅は、政治経済に対する認識から偶然の人々との出会いまで網羅した非常に濃いものだった。トイレが全然ないMTR、茶餐廳の出前一丁、土日に響く北京語…良し悪しは別として、一介の異国からやってきた旅行者として思うのは、この混沌こそがアジアの醍醐味であるということだ。自分の中で膨張していた「香港像」が実際に渡航して崩れ落ちるという懸念もなかったわけではないけれど、やはり来て正解だったのだ。
The Jam - In The City - YouTube
街中に燦然と輝く幾千もの顔がある
黄金色を纏ったその顔は25歳以下の奴ばかり
奴らは言いたい 奴らは伝えたい
若い人間の考えてることについて
ゴチャゴチャ言う前に聞いてくれよ
あんたらが考えてることはわかるよ
俺のことをロクデナシだと思ってんだろ
だけどしっかり耳を傾けるべきだ
若い奴らは楽しいことがどこで起こってるのか知ってるのさ
街中に制服に身を包んだ幾千もの人間がいる
そいつらには人を殺す権利があるって話だ
俺達は言いたい 俺達は伝えたい
若い人間の考えていることについて
上手くいかなくても とにかくやり続けてやるんだ
- The Jam / In The City
Los Crudos Japan Tour 2015
Los Crudos@Shisaibashi Hokage 29/06/2015
あの夜、あらゆる雑念は吹き飛んだ。優しくも強い意志を包括したマーティンの咆哮は、俺のチンケな悩みなんて宇宙の彼方にふっ飛ばしてくれた。ムーチャスグラシアス。パイセン方に良~いパンチもらいました。決して一時的な現実逃避なんかではなく、心の底から強く強く「生きねば」と思いました。
俺がこのブログを始めて一ヶ月目くらいにLos Crudosの全音源集を紹介したのがもう6年前。ちょうどその頃一時的な再結成をして本国アメリカでいくつかのギグをこなしていた頃だったと記憶しているけど、まさかこの目で観られるとは思ってもみなかった。
しかしハードコアパンクのライヴ自体久しぶりなのもあるけど、音楽畑にいる共通の友達が自分には皆無だなとあらためて痛感した…。やっぱ頻繁に現場に出ないと知り合いを得ることはできないな。別に出会いを求めに行ってるわけではないけれど、やはり同好の士っていうのは貴重なものだし、こういうニッチなジャンルになると尚更だ。
Toilet Rush 衝廁
大腸に疾患を抱えている都合で非常にトイレが近い小生、旅先での一番の心配事といえば衣食住や防犯上の諸々をすっ飛ばして「便」であると断言できる。
目的地のトイレ情報(紙は常備されてるか?紙は流してもいいか?有料か否か?etc.)はちゃんと事前に調べておくのが常なのだが、来月渡航予定の香港はどうやらトイレ事情において大変シビアな街のようだ。内外の香港通が言うことにはまず公衆トイレが全然ないという。あの世界でも名高い大都市香港に公衆トイレがない?嘘だろ?と思ったがどうやら事実のようで、あるにはあるが汚かったりわかりにくい場所にあったりと中々に厳しい状況とのこと。ショッピングモールなんかにはあってもMTR(香港都市鉄道)の駅や茶餐廳(香港版ファミレスのような店)になかったりするらしく、ちょっと日本では考えられないレベルの不便さに渡航前から悄然としている。
そこで「じゃあ香港人はどこでやってんだ…」という疑問が擡げてくる。みんなある程度場所を把握してるのか?しかし絶対数が少ない中で、しかも旅行者の自分が突然便意に襲われて場所を探しだすのは至難の業。自力でトイレマップでも作るか…と思った矢先、香港トイレマップ的なアプリを発見。やっぱあるんじゃないか!Toilet Rushという名前が必死さを物語っていてなんとも言えない気持ちになる。アプリ説明には「あなたが現地人だろうがツーリストだろうが関係なし!近くのトイレを瞬時に調べられます!」という煽り文句が踊り、「男女別」「多機能トイレ」のオプションが設定できたり、トイレ別に星付やコメント評価も可能でまだ登録されていないトイレがあれば追加できる。なるほど我々トイレノマドは情報を共有して助けあっていかねばならないのだ…。
汚い云々という公衆トイレの環境にもこの際目をつぶる。実際問題長期滞在していたフィリピンやインドのトイレは「努力してそうなったのか?」というくらい徹底的に汚されていたけどなんとか用を足していたし、排泄的な意味でも背に腹は代えられないのだ。
「アプリより先にもっとトイレ作れよ」と言いたい気持ちをグッとこらえ、ローマは一日にしてならずではないけれど「トイレは一日にしてならず」の精神で、なんとか大惨事を回避したいものだ。7月の香港の街でスマホ片手に必至な顔でウロウロしている日本人がいたらおそらく私です。